むしきらい

みんなは好き

一目惚れ(1)

  一、 あの日部屋の窓を、6月の雨が濡らすのを一人眺めながら、午後のうたた寝の時間をスマホの着信音にかき乱され、ふと我に返る。啓介の弾むような明るい声が聞こえてくる。「あのさ、今度開店した翡翠(かわせみ)に6時集合よろしく、実はさあ紹介したい娘がいるから、必ずだよ、じゃ待っているから」早口に用件だけ話すと、返事も聞かず一方的に切ってしまった。

 またか いつもの事で 2,3ヶ月もすると、ケロッとした顔で実はさあいい娘がいるんだよ本当にさあ、こんな可愛い娘初めて出会ったよ、今度紹介するから、が啓介の口癖で別に紹介なんかして欲しくもないし、どうでも好いんだけど啓介は憎めなくて逢っていればそれなりに楽しいからいいんだけど、今日は少しやりたい事があるから顔だけ出してそちらに廻ろうと思い立ち寄った。

 賑やかできれいな店で奥のテーブルに二人並んでいた、「レモンサワーでいい」「ああ」隣の娘は軽く頭を下げ会釈をした、藤色のワンピースに浅黄色のリボンが良く似合っていて思わず眼を逸らし頬が火照るのを感じた。

 「名前は加奈、来年は就活だから忙しくなるって、それで話は、今週お前鎌倉の展覧会へ行くって言ってたよな、良かったら一緒に連れて行ってくれないか、加奈はデザイン志望で、早瀬修一郎の作品をどうしても見てみたいからて、なあ頼むわ」

 突然のことで、それに自分ひとりじゃないし答えようもなく、サワーを口に運び黙っていると、「あの、すみません、連れて行ってもらえればいいんです。あとはかってに見て回りますのでお願いします」大きな瞳をさらに大きくして睨みつけるような表情のあなたを断るなんて勇気は僕にはない。

 「あーはい、いいですよでも何も出来ないですが好いですか」「はいよろしくお願いします」いきなり弾んだ可愛い声が店内に響き渡りました。